花菖蒲
「君はそうは言うが、商家は大変だと思うよ、お客様の扱い、帳簿、従業員の面倒も見なければならない、ましてや同居とあって」

 「どうしろと言われますの、美英に結婚止めなさいと言うのですか」

 「極論を言わないでください」

 「そう言う訳では無いが」
 良平は言葉に詰まってしまった。

「私はただ、美英の負担の軽くなる方法でも、無いかなと思っただけ」

「おかしな事言わないでください、聞かれでもしたら、先方様は美英を嫁に出したくないのだと、気まずくされますよ」

「そうだね、美英の思うようにさせるだけだね」
 良平は女性の逞しさを感じていた。

美英は芯の強い所を感じさせる娘だ、先の事はその事態が生じてから、対応するしかない訳だし。良平は話題を転じた。

 「ところで、一度君のご両親にも挨拶に出かけた方が良いよな」

 「あら、その事なら、私今日行って来ました」

「何か言ってた」

「すごく喜んでくれました。曾孫の話までして」

 「美英のそんな兆候あるの」

 「ある訳無いでしょう、曾孫が生めれたら良いなと言う事です」

 「孫が出来ても、手軽に行けないな」

 「それはありますね」

 遠く小田原城の天守閣が見える。祭り名物の武者行列があったのが、つい昨日のようだ日々の過ぎるのは早い。
 不意に妻が

 「それより、貴方、美英の結婚式に泣かないください。テレビのドラマで良くやりますけど、私あまり好きではありません、何か男親が自分ひとりで育てたような演技感て」

 「そうするようにする」
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop