春となりを待つきみへ
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小学校3年生の時、春霞が近所の6年生の男の子にいじめられた。
そいつは評判のガキ大将で、まあ所謂ただのバカだったんだけど、なぜだか小学生ってのは体のデカいバカを担ぎ上げる節がある。
ガキ大将はそんな子分共を引き連れて、下校中の春霞を公園に呼び出して持っていた体操服を池に捨てた挙句、春霞もそこに突き落とした。
お腹を壊して早退していたわたしが帰ってきた春霞を出迎えると、全身びしょ濡れで玄関にいたから驚いた。
どうしたの、とわたしが訊くと、春霞は笑いながら「池に落ちちゃった」と言うだけで。
何かあったはずなのに何も言わない春霞に腹が立ったし、それよりも絶対に平気じゃないくせに笑っている春霞にもっと腹が立った。
だけど何より許せないのは、春霞をこんな目に合わせた奴のことだった。
春霞は結局何も教えてくれなかったけど、何があったかは次の日にははっきりわかった。
原因であるガキ大将が、なぜだか自慢げにわたしに言ってきたからだ。
「お前んとこの弟、昨日公園の池に落としてやったんだぜ」
どうやらガキ大将は、好きな女の子が春霞のことを好きだったという事実にショックを受け、その腹いせに春霞を池に突き落としたらしい。
あんなもやしよりも俺のが断然強くて男らしいぜってことをアピールしたくてそれをみんなに言いふらしているらしいけど、救いようのないバカだということしかアピールできていなかった。
だけどわたしにとっては、原因がすぐにわかったことが好都合で、このときばかりはそいつのバカさに感謝した。
わたしはその日の放課後、例の公園にガキ大将とその子分共を呼び出し、決闘をした。