春となりを待つきみへ
朝が苦手なのは昔からだ。
昼過ぎまで眠ることを有意義に思う性格だから、「寝るのがもったいない」なんていう奴の考えはわからないし、むしろ眠れる時間があるのに早起きをすることの方がよっぽどもったいないと思えた。
学校のない土日は、大抵いつも遅くまで寝て、「そろそろお昼ごはんだよ」とよくハルカに起こされていたものだ。
学生ではなくなり、そして起こしてくれる人が側に居なくなった今も、わたしのその性質は変わらない。
だから休みの日に携帯のアラームを掛けることなんて、この5年間で一度もなかった。
もちろん今日だって、アラームどころか電源を切って、眠りについたはずだったんだけど。
「朝だぞ瑚春、起きろ」
夢すら見ていない深く心地良い眠りを、清々しく遮る声がする。
途端、ぬくぬくと温まっていた体にひやりと冷気が差し込んで、わたしは重たい瞼を半ば無理やりこじ開けた。
「いつまで寝てんだ。寝坊助だな」
うるさいな、わたしはまだ寝てたいんだよ、ハルカ。
そんなことを思いながらぼやける視界を持ち上げれば、ハルカの色素の薄い猫っ毛とは似ていない、癖のある黒髪がそこに映る。
「……冬眞」
「休みだからって寝すぎだろ。世間はもう活動してる時間だぞ」
再び閉じかける瞼の向こうで、聞こえたのは小さなため息。
呆れ顔に見下ろされる一日の始まりというのもどうなんだろう。
実に不愉快で不吉きわまりない気がしてならない。
だったらもうあれしかない、うん、つまりこれを始まりにするのはよそう、うん、そうしよう。
存外働く頭でそう考えたわたしは、足元に固まる剥ぎ取られたのであろう掛け布団を引っ張り上げ、二度寝に挑んだ。
だけど迷惑な居候は、今日も立派に主に迷惑を掛けてくる。