春となりを待つきみへ
冬眞はわたしに何も訊かない。
わたしの中で、昨日の夜に、一体何があったのか。
訊かれたとしても、嫌な夢を見たと、答えられるのはそれだけだけど。
それすらも訊いて来ないから、わたしも何も言わなかった。
沈めていた思いが、心の中から浮き上がってきてしまった昨日の夜。
冬眞は何も言わずに、わたしが落ち着くまで、ぎゅっとわたしの体を抱き締めて。
じくりと痛むわたしの耳に、自分の心音を聴かせていた。
冬眞の心音は、わたしのそれとは真逆に、とてもとても穏やかで。
聴いていると心地よくて、不思議と心が落ち着いた。
それはまるで、ハルカが、わたしの側に居たときの感覚と似ていて。
絶対的な信頼に、体中を包まれているときの、感覚と、似ていて。
不思議だった、可笑しかった。
だってわたしは冬眞のことを未だにひとつも信用していないはずなのに。
冬眞の“生きている”音は、わたしの心に直接響いて、不安をすべて取り除く。
ハルカが笑ってくれたり、頭を撫でてくれるのと一緒。
否応なしに、わたしの全部を晴れにする。
それは、とても、不思議な感覚。