春となりを待つきみへ
気だるさで目を覚ました。
頭は重く、がんがんと殴られているような鈍痛が走る。
いつもは部屋着に着替えて眠っているはずなのに、今の恰好は昨日仕事に出たときのままだ。
いつ眠ったのかよく思い出せないけれど、おそらく随分長い時間寝ていたはずなのに、寝不足の時のような沁み込んだ疲れが感じられる。
床に落ちていた鞄から携帯を取り出し時間を確認すると、朝の9時前。
わたしにしては随分と早い起床だ。
体は動こうとしないのに、もう一眠りしようという気も起きない。
布団を頭までかぶって、うっすらと光が染みる狭い空間で、ぼんやりと何もない場所を見つめていた。
ふと、違和感に気付く。
決して長い習慣ではないのに、ここ最近毎日当たり前のようにあったものだから、つい体に染み込んでしまったもの。
のそりと布団から顔だけを出すと、遮光カーテンのない窓から日の光が差し込む明るい部屋の中が見えた。
しんと静まり返った物の少ないワンルーム。
綺麗に片付いた、何も乗っていない四角いテーブル。
この頃は毎日、こうして朝目が覚めると、食欲をそそる香ばしい匂いが一番にわたしを刺激した。
焼きたてのトーストだったり、甘いヨーグルトだったり、ミルクたっぷりのコーヒーだったり。
わたしが起きる時間に合わせて出来立てのものが揃っていて、まだ覚めきらない目を擦りながら布団と一緒に這い出すと、
『おはよう、瑚春』
ってのんきな声が聞こえるんだ。
決して当たり前のことなんかじゃなかった。
朝はひとりで起きて、朝食なんてろくに取らずに出掛けていた。
それが、このたった数日間ちがう日常を送ったくらいで、当たり前が変わってしまった。
そのことに気が付いたのは、新しい“当たり前”がなくなった、今になってからだけど。