春となりを待つきみへ

「瑚春、これからどうする?」


冬眞が、最後にそっとお墓を撫でてから、立ち上がった。

わたしは、わたしよりも随分背の高いそいつを見上げる。


「これからってのは、どういう意味?」

「今からの行動ってのもあるけど、もっと長い意味でも」


冬眞の長い髪が、海風に吹かれて揺れる。

わたしは一度視線を落とし、丘の向こうの紺色の海を眺めた。


海を見るのは5年振りだ。

あの街に、海はなかった。



「わたしは、あの街に住むよ」

「ここに戻らないの?」

「うん。ここは好きだけど、今はあそこが、わたしの生きる場所」


ここで生きると決めた場所。

わたしが選んで、決めた場所。


あの街が、好きかどうかはわからない。

でも、大切な街だ。



「そう。わかった」


冬眞は言った。

それから、空のバスケットを持ち上げながら大きく伸びをして、わたしと同じように遠くの海を見つめた。



「俺も帰るよ」



静かな声だった。

いつもどおりの柔らかな、独特の、優しい響きの声だった。
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