春となりを待つきみへ
電話を切ってから、ゆっくりと息を吐いた。
椅子の背もたれに体を預けて、窓際の植木鉢を何を思うでもなく見ていた。
その小さな花は、あの街から帰って来てから、近所の花屋で買ったものだ。
通りがかりにたまたま見つけて、ああ、あの花だと、気まぐれに買ってしまった。
育てやすい花のようで、一度枯れた後も、種を落とし、また花を咲かせた。
花びらが開き綺麗に色付くのを見るたびに、俺は、あの七日間を思い出す。
そっと、目を閉じてみる。
真っ暗闇の中で、だんだんと響く。
体中に鳴る音。命を送り続ける震え。
体の奥で、トクン、トクンと波打っている。
俺の大事な宝物は、今も、俺に「生き続けて」と、小さな拍動を繰り返す。
誰がために。
“きみ”のために。
「……ああ、わかってるよ」
そっと胸に手のひらを当てる。
わかってる。またあの子は、ひとりで膝を抱えてしまっているんだね。
今度は一体、何を考えすぎているんだか。
大丈夫。一緒に側に行こうか。
いつもみたいに走って行って、安心するまで抱き締めてあげよう。
それから、ね、あの子に伝えたいことがあるんだ。
先にきみに言っておこうかな。きみにも言わなきゃいけないことだし。
俺は一生、いつかきみに会えるそのときまで、あの子の手を引く覚悟ができた。
きみが歩いたその道を、今度は俺に、歩かせてほしい。
安心して、任せていいよ。その手は絶対、離さないから。