春となりを待つきみへ
朝食を食べ終わって、冬眞に片付けをさせている間に身支度を済ませる。
簡単に化粧をして着替えたわたしに「どっか行くのか」なんて冬眞が訊いてくるから、そろそろ本気で追い出してやろうかと思った。
「でかい捨て猫を拾ったし、お金が必要なんでね」
「ああ、仕事か。そりゃそうだな」
納得だ、なんて真顔で言うからフライパンがあれば殴っていたところだ。
だけど残念、料理はこいつがしているから、わたしはフライパンを持っていない。
本当に残念。
「……わたしもう行くけど、あんたは絶対何があってもここで大人しくしてる事。もしくは出て行って二度と戻らない事」
「大人しくしてます」
「出来れば出て行ってほしいけどね。あ、お昼はカップラーメンでも食べてて。他にないから」
「瑚春、何時ごろ帰ってくる?」
「たぶん8時過ぎ頃だと思う。なんか変な事してたらぶん殴るから、ほんとに大人しくしててね」
もしくは出て行って二度と戻らない事、ともう一度言って、わたしはいつもの鞄だけを持って家を出た。
あんな知らない他人を自分の家に残して出かけられる人間なんてきっとわたしだけだなと思いながら、溜め息を吐き、階段を下りた。
なんだか昨日から、たくさん溜め息を吐いているような気がする。
今まで溜め息なんて、そんなに吐いたことはなかったのに。
いや、溜め息を吐く程、何かに感情を揺らされる事がなかっただけのことかもしれない。
だとしたら、昨日からこんなにたくさん吐き出されている息はなんなのだろう。
「……精神的な、疲れ?」
見上げた空は、透明で青い。