春となりを待つきみへ
なんだか、なにもかもが、非現実的な気がする。
いや、なんか、言い方が可笑しいかもしれないけれど。
だって、朝起きてご飯食べて仕事行って帰ってきてご飯食べて。
あまりに平和な日常且つ現実的な生活だから。
それでもなんだか、わたしにとってはファンタジーと同じ。
今、この瞬間が、不可思議な出来事で、不可解な事態で。
あるはずのない、日常で。
「あ、こら瑚春、にんじん残すな」
「嫌いなんだもん」
「せっかく大家さんから貰ったのに」
「嫌いなんだもん」
「2回も言うな」
わたしのお皿の上にぽつんと残ったにんじんを冬眞が箸でつまむ。
「ほら食え」なんて言いながらそれを顔のそばまで持ってくるもんだから、わたしは逃げるようにしてベッドの上に避難した。
「まったく……好き嫌いしてたら大きくなれねえぞ」
もう十分おとなだっての。
そう思いながら、ぱくりとにんじんを食べる冬眞の横顔を覗いていた。