春となりを待つきみへ
そういえば、昔も同じようなことを何度も言われたっけ。
わたしが大嫌いなにんじんを残すたびに、大きくなれないからちゃんと食べろって怒って。
だけどどうしても食べたくなくて、無理やり口に入れられそうになっても意地でも開けなくて。
それで結局は向こうが折れて、わたしの代わりに食べてくれるんだ。
『まったくコハルは、仕方がないなあ』
そう言って、笑って。
そんなことをいつも繰り返して。
本当は、別に、どうしても食べられないわけじゃなかったから、食べようと思えば食べられたんだけど。
それでも拒んでいたわけは、困っているわたしを、同じように困ったみたいに笑いながら、それでも絶対にきみが助けてくれるのが、なんとなく、嬉しかったからで。
ねえ、ハルカ、きっときみは、そんなことも、気付いていたんだと思うんだけど。
「仕方がないなあ、瑚春は」
溜め息混じりの冬眞の声。
なんだか心臓の奥が変な感じがして、枕を握りしめてぎゅっと目を瞑る。
仕方がないなあ、なんて。
そんな言葉を、こうやって何気ない空気の中で聞いたのならば、なんだか、すべてがあの頃に戻ったような気もして。
だけど、やっぱり、これは、違うんだよね。
どんなにそんな気がしても、それは所詮気のせいであって、あの頃に戻れることなんて、空と地面がひっくり返ることよりもありえないことなんだ。
そんなこと、とっくに、知ってた、はずなのに。