春となりを待つきみへ

小さい頃から泣き虫だった。

自分でそう思っていたわけじゃないけれど、まわりからはよく言われていた。


泣けばなんとかなると思っていたわけじゃない。

むしろ泣くことは負けることと同じだから、絶対に泣くもんかって、いつも思っていたくらいだ。


だから我慢していた。

転んで怪我をしても、迷子になっても、嫌な奴にいじめられても、うんこを踏んでも。

わたしは頑張って我慢していたのに、結局いつも、泣いてしまうんだ。


それは、いつも、ハルカが、わたしが泣きそうなときに傍にいたから。



ひとりで必死に唇を噛みながら我慢していても、なんでか知らないけど気付いたら傍にいて。

もう大丈夫って笑うもんだから、わたしはいつも、泣いていた。


どうしていつも、わたしが泣きそうなのがわかるのか、わたしが居るところがわかるのか。

それは、昔も今も、ずっと不思議なままだけど、きっと、そんなのはどうでもよくて。


無尽蔵に思えるくらい、いっぱいいっぱい涙を流して。

ついでに鼻水とかよだれも流してぐっちゃぐちゃになった顔を、ハルカは困ったように笑いながら拭いてくれた。


そういえば、わたしはしょっちゅう泣いていたけど、ハルカは滅多に泣かなかったっけ。

そりゃあ飼ってたハムスターが死んだときはさすがに泣いていたけれど、でもあんまり、涙を流さない奴だった。


そう、まるでわたしが、ハルカの涙を取ってしまったみたいで。


だからわたしが泣きそうなとき、ハルカはそれに気づいて、傍にいてくれたのかもしれない。

元は自分の涙だから。

わたしが盗んだ、きみの涙だから。



だから、だろうか。


だからあの日、きみは、わたしがこれから流す涙のすべてを、持って行ってしまったのかな。
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