春風が吹く頃
春風が吹く頃
雪が融け始め、桜の蕾が膨らんできた。空気も、1週間前よりは暖かい。
卒業式の前日ということで学校が午前で終わった。
風間椿はいつもよりものんびり歩く。
最近は寒いこともあって、急いで帰っていたから、今まで見えなかったものが見えてくる。
ふと、1つの場所で目が留まる。
外にたくさんの花が置いてあるから花屋なのだろう。
そこは、家と家の間にある小さな店。中を覗いてみれば清潔感漂う綺麗な空間だった。
「いらっしゃい」
椿が外に置いてある花を見ていると1人の青年が店の中からでてきた。
花から視線をずらし、声の方を見る。
「花、興味あるの?」
青年は20歳くらいで、少し下がった目尻、綺麗な甘栗色の髪。
とても花が似合う、優しい雰囲気を持っていた。
「えっと、あの…っ」
ただ目にとまって、興味本位で見ていただけで椿自身、花には全く興味はなかった。
「この花…」
思ってもそんなことは言えるわけもなく、ちょうど自分が見ていた、小ぶりの白い花を指さす。
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