春風が吹く頃
「これはフリージア。花言葉は親愛や慈愛」
"親愛"
花言葉を聞いて、椿は少し考え込む。
「あの、この花の花束、お願いできますか?」
「大丈夫だよ。プレゼント?」
「はい…そんなものです」
曖昧に笑ってごまかす。
明日は卒業式。2年である椿には直接的には関係はない。
しかし椿の想い人、弓道部の先輩である秋山杏奈は明日でいなくなってしまう。
杏奈には恋人がいる。彼女と同じ3年で弓道部の主将、芦谷和志。綺麗で強かな杏奈と男らしい和志は行内でも有名なカップルだ。
椿は杏奈のことを恋愛感情込みで好きだが、2人とも、大好きな先輩なのだ。だから告白するつもりなんてなかった。
しかし、フリージアを見て花言葉を聞いて、卒業する前に想いを告げたくなったのだ。
「じゃぁ、できるまで少し時間かかるから、店内見ててよ。えっと…」
「椿です、風間椿」
まだ名乗っていないことに気づき、言う。
「椿君、か。俺はハル」
「ハルさん」
優しい雰囲気をもつ彼にはぴったりな名前だと思った。
ハルはフリージアをバケツごと持って、店の奥へとはいって行った。椿も、ハルについて店へと入る。
言われたとおり、店内を見て回る。店内には、外にあるものよりはるかに量の多い花があった。1つ1つきれいに飾られていて、花に興味のない椿でもほしいを感じるくらいだった。