Foolish boyfriend~5年前の約束~

「バカって言う方がバカなんだぞ。」


ほんとに、付き合う前は普通の人だった。喧嘩っ早いっていうのは聞いてたけど、あんまり怖いって印象はなかったし。


「達哉だってあたしのことバカにするじゃん。達哉の方がバカなのにさー」


きっと、初めて喧嘩をしているところを見てからだろう。あの時から、何か変だと思ってた。

喧嘩をするときの表情が、楽しそうだったから。少しゾッとしたんだよね。


あたしには向けられたことがない表情だったから。


「まぁ、俺がバカってのは認める。事実だし。」


意外とあっさりしていた。さほど気にしてないかのような、普通の表情。今は怖くない。


「舞子、手袋買えば?お前手すっげぇ冷たいし。」


急に何を言い出すのかと思えば、手袋を買え、と。それと同時に、繋がれていた方の手がグッと持ち上がった。


「指ほせー…」


あたしの指に興味を持ったみたいなのだが、マズい。服の袖が少しあがって、手首が見えてしまう。


「た、達哉が太いだけでしょ…」


別に、太くないんだけど。言葉を考える余裕なんて今はなくて。

ヒリヒリとしていた手首を再び確認すると、ジャイアンによって付けられたであろう、爪痕がいくつかあった。


皮、むけてるし…


バレる前に隠そうと、手をしたに引いたけど遅かった。グッと達哉の方に引き寄せられる。


「舞子、何これ」

見つかってしまった。
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