Foolish boyfriend~5年前の約束~

S高は、うちの学校からだと、自転車で10分もしないうちに着く。そう遠くない距離だ。


「寒っ……」


遠くない距離とはいえ、気温が低いことに変わりはない。急いで来たものだから、マフラーも手袋も鞄の中だ。


でもきっと、前で自転車を漕いでる向井君の方が、あたしよりも寒いんだろうな…


乗せてもらってる上に、あたしが今マフラーや手袋なんてつけたら、それはもう嫌味だ。



「さっみー!!!」


自転車を漕ぎながらそう叫ぶ向井君。ほんとに、申し訳ない。


心の中で、ごめんなさい、と謝ったとき、今まで平地だった地面が急に斜めになる。


「「あぁーー!!」」


夏にはありがたく、冬には恨めしい、急な坂。考え事をしているうちに、坂に差し掛かった。


「手がカチカチ!」


前も後ろも関係なく、風はビュービュー当たっているのだと思うのだが……

きっとそれは後ろにいるあたしが感じた意見。前にいる向井君の寒さは尋常じゃないだろう。


この坂を下れば、すぐにS高に着く。S高が近くにあって良かった、と初めて思った瞬間だった。




少し汚い学校の前で、向井君とあたしを乗せた自転車は、キィッと音を立てて止まった。
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