Foolish boyfriend~5年前の約束~
「っしゃ、行くぞ広田」
手の感覚がないであろう、向井君はカチャカチャと鍵を外すことに苦戦していた。
「いいよ向井君、あたしが鍵するから。」
こんなの待ってたら、キリがない。向井君と交代して鍵をはずしている
―――ガッシャーン!!!
物凄い音と、罵声が校舎裏の方から聞こえてきた。
まさかとは思うけど……、達哉じゃないよね? S高だもん、喧嘩なんて日常茶飯事だと思う。
「広田、お前ここで待ってろ。」
指の骨をポキポキ鳴らしながら、立ち上がって歩いていく向井君。
ちょっと待ってよ、あたしは何のためにS高まで来たのよ。あんな寒い中を我慢して来たのに、待ってるだけなんてイヤ。
でも、行くと言ったら確実に止められるから言わない。
見つからないように、向井君が行った後でこっそり行くもんねーだ。
「女の子1人、S高に残す方が危険だよ、バーカ…」
達哉に想われていることは重々承知なのだが、たまに……
ほんとにたまに、あたしのための喧嘩じゃなくて、ただのストレス発散なんじゃないか、って思ってしまう。
今日だって、メールが来ていたというだけで、ここの学校まで乗り込んできているのだ。
あたしのため、なんて、喧嘩をするための都合のいい理由なのかもしれない。
「はは…っ」
そう思うと、自然と笑えてきた。乾いた笑い声が、1人でいるあたしの周りに響く。