Foolish boyfriend~5年前の約束~
向井君は何してるの。あたしよりも先に止めに行ったはずなのに、その場に突っ立ったままだった。
「あ、舞子ー」
呑気な口調でそう言う達哉。あたしの顔を見てニッと笑った。
向井君は止められないと悟ったのか、呆れた表情で達哉を見ていた。
「な、にやってんの…!」
「何って………喧嘩?」
大して反省する様子もなく、掴んでいた男の人の胸ぐらをパッと離した。
気がつかなかったけど、達哉の口の端から、少しだけ血が出ている。殴られた痕だろう。
「こんなとこで喧嘩なんかしたらっ、バレちゃうでしょ!」
すでに神崎の意識はなくて、達哉が手を離したときには、地面に横たわっていた。
「大丈夫だって。舞子の彼氏だってことしか言ってないしー」
ニコニコしながら近づいてくる達哉の手は、神崎の血で赤く染まっていた。
一瞬、達哉が怪我したのかと思った。殴られてるのだって、付き合ってから数回しか見たことがない。
「バカじゃないの…」
涙腺がゆるむ。
ポタポタと、涙が頬を伝った。
少し驚いたような表情をした達哉は、そのままあたしを抱きしめた。
「泣くなよー、ごめんって」
頭をポンポンと撫でる達哉。あ、達哉手汚れてたのにな。
「謝るなら、最初から喧嘩しないでよ…」