Foolish boyfriend~5年前の約束~
あたしと喋っているときには聞いたことがない声だった。低くて、掠れた声が聞こえた。
「え…?」
焦った。
あたしには絶対にそういう態度を見せたことがなかったのに、今の口調は何?
「っ…あ、わりぃ…」
ハッとしたように顔を上げて、あたしを見た。その表情はどこか悲しそうに見える。
無意識に言ってしまったのだろうか。あたしに向けられたあんな言葉、初めて聞いた。
「ごめん……、もう帰ろう…」
再び下を向いた達哉。
いつもは見せない弱気な様子に、思わず戸惑ってしまった。血のついた手をギュッと握る。
「見つかっちゃいけないから、帰ろっか……向井君ももういないし。」
向井君は、きっとあたしたちが話しているのを見て、途中で先に帰ったのだろう。すでに校舎裏にはいなかった。
繋いだ達哉の手は赤くて、あたしの手は肌色で、何となく、繋いだ部分を重く感じた。
彼の手には不安、あたしの手にも不安。でも、不安の原因があたしとは違うんだろう。
何となく、不安になった1日だった。