【短】クリアネス-未来へ-
「皆さん。今日は卒業文集に載せる作文を書きましょう」



小学校卒業を間近に控えた冬。



担任の教師がそう言って、ピンク色のチョークを黒板に滑らせた。


カツカツ、と黒板を打つ音。

そして手を止め、くるりと振り返った満足げな顔の後ろには


【将来の夢】


――そんな言葉が書かれていた。



教室の中は、華やいだざわめきに包まれる。


「え~、何にしよう。迷うなあ」
「やっぱりお嫁さんじゃない?」
「俺はアクション俳優」


それぞれが零す笑顔。
担任の表情はますます満足げだ。


俺は原稿用紙と睨めっこし、シャーペンを握りしめた。

その横で、クラスメイト達は声を弾ませる。


「よし、決めた!パイロットだ」
「じゃあ私、スチュワーデス」
「お前なんか無理に決まってるだろ」
「うるさい!」


教室に起きた笑い声。


俺は一人黙ったまま、机に向かっていた。

この紙に綴る言葉など、思い当たらなかった。



カチャン…!


手元が狂い、シャーペンが椅子の下に落ちた。

俺はしゃがみ込み、シャーペンを拾う。

頭の上で、みんなの笑い声がこだました。



「――…イタっ…」


胃が、ちくりと痛んだ。
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