『短編』5分前
外に出たとたん、冷たい空気が頬を突き刺した。
コートのポケットに両手を突っ込む。
外灯しか明かりがない暗い道を、悠斗兄ちゃんと並んで歩く。
時々、悠斗兄ちゃんの腕がわたしの腕に当たる。
それだけで、心臓の音が大きくなる。
「寒い?」
わたしの顔を見つめる悠斗兄ちゃんの顔は、いつも優しい。
「ちょっとだけ」
その優しいまなざしを受け止められなくて、視線を足元に落とす。
すると、悠斗兄ちゃんの手がわたしのコートのポケットに入ってきたかと思えば、ぎゅっと手を握りしめられ、そのまま悠斗兄ちゃんのダッフルコートのポケットに、すっぽりと収まってしまった。
「ちょっとは温かくなった?」
「う、うん……」
わたしの目は、きょろきょろと動いてしまう。
ものすごく照れくさいことを、飄々(ひょうひょう)とやってしまう悠斗兄ちゃんは、やっぱりわたしよりずっと大人だ。
なんてことを、悠斗兄ちゃんの体温を感じながら思った。