銀杏


おばさんは咲にお茶を入れてくれて、「大丈夫かい?」と顔色を伺った。

「うん。」

もう何ともない。何だったんだろう。

「えっとね。気持ち悪くなってぇ、ドキドキしてぇ、汗がいっぱい出て嫌な気持ちになったの。」


実はこのお店の前で母が事故に遭ったのだと後から知った。私はあの時の事をよく覚えていなくて、ただ『怖い』という思いだけが印象に残っていた。



「今日はどうしたの。一人?」

「タケルんちに行くの。」

「おばさん、ついて行こうか?」

「ううん、大丈夫。でもちょっとだけついて来て?」

お店を出て曲がり角までついて来てもらうと、おばさんは帰って行き、尊の家へ向かった。

あそこの角を曲がれば尊のお家。

尊、びっくりするかな。

ワクワクして足が段々速くなる。いつの間にか駆け出していた。




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