銀杏


歩道橋に差し掛かったところで、向こう側に自転車が見えた。

その横に立つ人影。

今一番会いたくない人がこちらを見ている。

離れた所からでも怒っているのがわかる。

逃げたい。逃げてしまいたい。でも…。

尊はしばらくこちらを見ていたけれど、咲が歩道橋を渡り始めると、くるりと背中を向けて帰っていく。

乗って来た筈の自転車を押しながら、ゆっくりと咲の歩調に合わせて。

時々咲の位置を確かめながら、つかず離れずの距離を保つ。

先に家に着いた尊は門に持たれて腕組みをしている。

尊を無視して中に入ろうとすると、

「待てよ。」

低い声で咲を呼び止めた。




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