銀杏


昼休み。

昨日言われた通り音楽室にやって来た。

扉は開いていて人の気配がする。
覗くとピアノの前に立ってポロンポロンと弾く先輩がいた。

「よっ!こっち来いよ。」

傍に行くと「そこ座って。」と窓際に置かれた椅子を指差した。

「今から一文字のために弾くから。」

背筋を伸ばしてピアノの前に座る。

スラリと伸びた腕と細くて長い指が、鍵盤の上を滑るように自由自在に動く。

奏でられる音は綺麗なメロディーとなって耳に響いた。

ただ無心になって指から溢れ出る音を聴き漏らさないように、その世界に酔いしれていく。

最後の一音を弾き終えるといつからそこにいたのか、廊下にはたくさんのギャラリーが集まっていて、わっと拍手が沸き起こった。




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