銀杏
プールサイドに行くと、みんな速そうに見えてドキドキする。
ても私だって頑張ってきたんだから。大丈夫、大丈夫。
自分に言い聞かせるようにずっと心の中で言い続けた。
競技が始まり、少しずつ順番が近づいてくる。
次のスタート台に上がるために、手前に置かれた椅子に座る。
観客席のクラブの仲間たちが見える。
あ…先輩がこっち見てる。
私が泳ぐとこ見てもらえるのはきっとこれが最後。
精一杯頑張ってきます。
前の人たちが終わってスタート台に上がった。
場内が静まり返る。
「よーい!ピッ!」
スタートの合図でジャンプしてからは何も考えられなかった。
クロールを50m泳いで、次は平泳ぎ。時折、クラブの仲間の声援が聞こえる。その中に明らかに違う方向から声が聞こえた。
「咲――っ!」
誰の声かなんて考える余裕はなく、ただ必死になって泳いだ。