銀杏


でも朝どんなに喧嘩していても、尊はあの商店の前を通らなくてすむように、わざわざ回り道をしてくれていた。

そしてしばらく歩くと、「ごめんね尊。ありがと。」と素直に言えて、尊もまた、「俺も。ごめん。」と言って手を繋いで学校へ行くのが日課となっていった。

おばちゃんは歯科医院の受付の仕事をしている。朝仕事に行って、昼に一度帰って来る。その間に買い物をしたりして、また仕事に戻る。だから尊も咲も学校を終えた後、6時まで学童保育にいて、おばちゃんに迎えに来てもらって一緒に帰る毎日だった。

おばちゃんもあの商店の前を通らないように回り道をしてくれる。それは尊の家族の気遣いで暗黙の了解だ。

尊との喧嘩は日常茶飯事。おばちゃんはもうすでに見て見ぬ振り。取っ組み合いにもなるとスリッパを持ち出して、「はい。片方ずつあげるからもっとやりな。」とけしかけた。

けしかけられると戦意喪失してしまい、喧嘩が収まる。

おばちゃんも徐々に子どもの喧嘩に要領を得ていった。




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