銀杏
小学校4年にもなると尊は意地悪く、咲は口達者になっていた。
「何だよ、この絵。へったくそだな。」
ニヤッと意地悪っぽく笑って、「へったくそー、へったくそー。」と節をつけて囃し立てた。
咲は負けじとやり返す。
「へー、そう言う尊は何描いたの?これ猿じゃん。自画像描くんだよ。」
尊の顔がカーッと赤くなって口をへの字に曲げ、目をつり上げた。
『勝った』と言わんばかりの咲の顔。
尊はムッとしてその場を離れた。
そして絵筆やパレットを洗いに行った時だった。先に水道で洗っていた尊の横に行き、「描けたの?猿。」と言った。
尊は何も答えず、水道の蛇口に手のひらを当てると栓をひねった。咲目掛けて水が勢いよく飛び、咲の顔はびしょ濡れ。
「お、わりーな。手がすべった。」
素知らぬ顔をして戻って行った。