銀杏
「何か…あった?」
「……。」
「クス…変な尊。」
「…ごめん。もう寝るわ。」
尊はサッと立ち上がってドアノブに手をかける。
「尊。」
背中を向けたまま立ち止まった尊に、そっと後ろから手を回し抱き締めた。
「練習が大変なら、大変だとか辛いとか言ってもいいんだよ。先輩の悪口も顧問の愚痴も何でも聞くから。心の中に溜め込んじゃだめ。…夜のランニング、一緒に行こうか?」
尊は腰に回された手に自分の手を添えた。
「咲は…何でもわかるんだな。」
そう言うと咲の手をそっと外し、こちらを向いた。
視線がぶつかり絡み合う。
「少しだけ…ハグさせて。」
左手は肩へ、右手は腰に回しぐっと力が入る。
咲は微動だにせず、黙って抱かれている。
尊の鼓動が咲の耳に流れ込む。