銀杏
そう言うとそっと咲を抱き寄せ、少しずつ力が入る。
咲も尊の背中に腕を回し、抱き締め返す。
何も言葉は出なかった。
尊の体温が咲の体に流れ込み、咲の体温が尊に流れる。
そんな感じだった。
「ねえ尊。」
「ん?」
「これから時々ハグして欲しい。…だめ?」
「ああ……気が向いたらな。」
「えー、尊の気分次第なの?…それって主導権尊じゃない。」
「そういうことになるな。」
「もう!」
頬を膨らませたところで、真っ暗な部屋の中。見える訳がない。
「そう怒るな。」
尊は腕を緩めて両肩を掴むと、咲の左の頬に―――
チュッ
キスを落とした。
え……
「おやすみ!」
尊は真っ暗なままの部屋から慌てて出て行った。