銀杏


ここの落ち着いた雰囲気が好きで、昔からそこここにある物をキョロキョロと見ながら、タイムスリップした気分になったりしたものだ。

ここは咲の気持ちを落ち着かせるにはちょうど良い。

ちりんちりん…

後ろから自転車のベルの音がする。歩きながら脇へ寄るも、まだ音がする。

ちりんちりん…

煩いなあ、端へ寄ってるじゃない。

充分通れる程道は空いてる。

今度はすぐ横で、

ちりんちりん…

せっかく落ち着きかけた咲の気持ちを逆撫でする。
またイラッときて、キッと振り返った。

「一人?」

「あ…こんにちは…。」

そこにいたのは北条さんで、相変わらずの優しい笑みを咲に向ける。

でも咲の気持ちは落ちたままで、せっかく声をかけてもらっても話す気にもなれない。




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