銀杏
ゆっくりと髪を手櫛で何度もすいた。
まだ乾ききっていない髪。
日に焼けた肌。
咲の右手を握る尊の左手のひらにはマメがいくつもある。
「ねえ、尊はいつから左手でラケット持つようになったの?」
北高テニス部が緑ヶ丘で練習試合をした日。
抜かれたと思ったボールをラケットを左手に持ち替えて打ち返した。
「ああ、中学の時から。」
「そんな頃から?」
「うん。右手ばっかりだと体のバランスが悪いから両方で練習してた。ただ人前では左手を使わなかったけど。練習試合の時、初めてやって結構いけるんだと思った。」
「そうだったんだ。…尊は偉いね。自分のことちゃんとわかって、それを課すことができる。なかなかできないよ、自分には甘くなっちゃって。」