銀杏


「お前に…俺の気持ちなんか…わかるもんか。」

押し殺したような声で苦しそうに言う尊の顔は、怒りを抑えてるようにも切なそうにも見えて、何も言い返せない。

見つめ合ったまましばらくすると尊は手を放し、咲の上から下りて静かに出ていった。

一人でソファーに座りボーッとしていると、二階に上がった筈の尊はまた降りてきて玄関を出た。

こんな時間に…ランニング?
…知らない!尊のことなんか放っとこ。

無視を決め込んで一人DVDを点ける。
テレビの音だけが響いて部屋の中は静かだ。

DVDを観る時はいつも二人で観てたのに、一人で観るのは…つまらない。
主人公が喋る台詞もストーリーもちっとも頭に入らない。

目はテレビ画面を観てるのに頭の中は尊のことだらけ。

深いため息を吐き窓の側まで行くと、空を見上げた。




< 288 / 777 >

この作品をシェア

pagetop