銀杏


「あの…訊いたことなくて。」

「そう。…昔、お手伝いさんに来てもらってたことがあってね、その方が一文字さんてお名前だったの。雪乃さんって言うんだけど聞いたことない?」

……一文字…雪乃?

「さ…さあ。その方がどうかしたんですか?」

「それが理由も告げずに突然辞めちゃって。あちこち探したんだけどね…。」

おばさんは小さくため息を吐いた。

「そう…ですか。すみません。」

「あら、何で咲さんが謝るの?こちらこそごめんなさい、変な話してしまって。お茶おかわりいかが?」

「いえ…あの、そろそろおいとまします。ごちそうさまでした。」

「え?もう帰られるの?あら残念。もっとお話したかったのに。じゃあ、今度はゆっくりいらしてね。お待ちしてるわ。」




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