銀杏
「さっきから呼んでんのに無視かよ。…元気ないな。何かあったのか?」
「そ…そう?何にもないよ。」
「……。後ろ乗れ。」
「…うん。」
何度も乗った尊の自転車。腰に掴まっておでこを背中に当てた。
さっきから高鳴っていた胸の音は、徐々に落ち着きを取り戻す。
やっぱり尊は安心する。
北条さんちは初めてで緊張して疲れた…。
尊の背中は…暖かい。
家に着いて自転車を降りると尊に呼び止められた。
「咲、お前何かおかしいぞ。どこ行ってた?」
北条さんちに行ったなんて言うと、きっと不機嫌になる。返事に詰まって適当に答えた。
「どこも…。ウィンドーショッピングしてきただけ。」
「嘘つけ。じゃあ何でそんな顔してる?」
「そんな顔?元々こういう顔だもん。」
はぐらかそうとするけど尊は真面目に言ってくる。
「そうじゃなくて。眉間にしわ寄せてすんげーブサイク。もうちょっとマシな顔しろって。母ちゃん心配すんだろ。後で話聞いてやるから…」
「おばちゃんに訊きたいことあるの。だから…大丈夫。」
…だと思う。
尊の話を遮って答えると先に家に入った。