銀杏


「さっきから呼んでんのに無視かよ。…元気ないな。何かあったのか?」

「そ…そう?何にもないよ。」

「……。後ろ乗れ。」

「…うん。」



何度も乗った尊の自転車。腰に掴まっておでこを背中に当てた。

さっきから高鳴っていた胸の音は、徐々に落ち着きを取り戻す。

やっぱり尊は安心する。
北条さんちは初めてで緊張して疲れた…。
尊の背中は…暖かい。

家に着いて自転車を降りると尊に呼び止められた。

「咲、お前何かおかしいぞ。どこ行ってた?」

北条さんちに行ったなんて言うと、きっと不機嫌になる。返事に詰まって適当に答えた。

「どこも…。ウィンドーショッピングしてきただけ。」

「嘘つけ。じゃあ何でそんな顔してる?」

「そんな顔?元々こういう顔だもん。」

はぐらかそうとするけど尊は真面目に言ってくる。

「そうじゃなくて。眉間にしわ寄せてすんげーブサイク。もうちょっとマシな顔しろって。母ちゃん心配すんだろ。後で話聞いてやるから…」

「おばちゃんに訊きたいことあるの。だから…大丈夫。」

…だと思う。

尊の話を遮って答えると先に家に入った。




< 302 / 777 >

この作品をシェア

pagetop