銀杏


しばらくおばちゃんの胸で泣いた後、おばちゃんは静かにこう言った。

「認知をしなかったからと言って、望まない子だったとは限らないと思うよ。」

「え…?」

「世の中には色んな事情で、認知したくてもできないことだってあると思うの。咲ちゃんの場合もそういうこと考えられなくもない。
でもね、これだけは言える。
ちゃんと愛し合ってる両親から生まれたんだよ、咲ちゃんは。
だってお母さんはとっても咲ちゃんを愛してた。
お父さんに似た部分を見つけては、嬉しいと言ってたんだから。」

「う…おば…ちゃ…。」

止まっていた涙がまた溢れ出す。

おばちゃんは泣き続ける咲の背中をトントンとしてくれて、「さ、先にお風呂に入っといで。」と促した。



それから機会があれば北条さんちに行って、色々訊きたいことがあったのに、なかなかそのチャンスは訪れなかった。




< 306 / 777 >

この作品をシェア

pagetop