銀杏
木々の下をガサガサと音をたて、つま先で落葉を蹴り上げるように歩いていると、少し先にスーツ姿の男性が銀杏を見上げている。
その横顔は切なそうで、今にも涙が零れ落ちるのではないかと思ってしまう。
じっと一点を見つめ、でもその瞳は銀杏を捉えているのではなく、どこか遠くを見ているようだ。
しばらく見上げていたと思ったら、今度は俯き加減でため息を吐き、胸ポケットから眼鏡を取り出す。
それを装着すると、たった今ため息を吐いた姿から想像もできない程、ピンと背筋を伸ばし、足元のビジネスバッグを掴み、颯爽と歩き出した。
え…雰囲気が――
変わった。
その人は咲に背中を向け、次第に見えなくなった。
あの人…何かあったのかな。