銀杏
「紹介なんかするんじゃなかった。」
そっぽを向きながら小さな声で呟く。
福田くんは咲に聞こえないように言ったつもりかもしれないけれど、閑静な住宅街でそれは咲の耳にも届いた。
「お母さんが…。」
「え?」
「昔、お母さんと北条家が知り合いだったみたいで、お母さんのこと色々訊いてたの。
北条さんのことが好きだとかそんなんじゃ…ないよ。」
好きじゃない…と言いながら、何だか後ろめたい気持ちが湧いてくるのはどうしてなんだろう…。
「何だ…そういうことか。」
ほっとしたように言う福田くんは言葉を続けた。
「一文字のお母さんの話を、何でわざわざタカさんちで訊くのさ?直接親に訊けばいいじゃん。」