銀杏
第五章
二つの顔
「博貴さんはどうしているんですか?」
北条家を訪ねた咲は貴士に訊いた。
「相変わらずさ。仕事から帰ると用事のある時以外、部屋から出て来ないし、会話もない。……もういいじゃないか、いい大人なんだし。周りの人間があれこれ言っても、本人が聞く耳持たないんだから。」
「…私の話は伝わってるの?」
「いや。特に話す必要ないだろ?気になるなら自分から訊けばいい。まともに話なんか聞かないよ。」
男兄弟ってこんなもん?おばさんもお兄さんにはこんな風に思ってるんだろうか。
家族なのに随分突き放すんだ。何を言っても本当に無駄?
「話かけても…いい?」
「……」
貴士はしばらく考えて、ようやく重い口を開いた。