銀杏


「昔の兄貴は悪戯好きで明るい性格だった。
でも今は全く違う。まるで別人だ。態度は冷たくて、人の話を聞いてるのか聞いてないのかわからないし、口を開けば刺々しい。
咲ちゃんが傷つくのは目に見えてる。
気持ちは有り難いけど止めた方がいい。」

「……諦めてるの?」

「……」

「一緒に住んでるのにこんな悲しいことないと思う。お兄さんはきっと今でも苦しんでるのではない?何が原因かはわからないけど…。」

「原因はおそらく雪乃さんだ。彼女が突然いなくなったからだと思う。」

「じゃあ、気持ちの矛先が母じゃなく家族に向いたと…。」

「たぶんね。あー、でも誤解しないで。責めてる訳じゃないから。
きっと兄貴も雪乃さんが出て行った理由を知らない。だから当時は怒りの矛先を家族にぶつけるのが精一杯だったんだろ。
でも今は30を過ぎてる。いつまでも子どもみたいな態度に苛つくこともある。
いい加減にしろ!って怒鳴りたくなるよ。」




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