銀杏
最初は部屋の前でノックをして、無反応の扉に向かって挨拶していた。
そのうち、天気の話や土筆が生えてるとか、桜が綺麗だとか時候の話を一言付け加えたりしながら、声をかけ続けた。
1ヶ月くらいたった頃、「お土産を持ってきたから受け取って欲しい」と言うとほんの少し扉が開いた。
無愛想に冷たい視線で咲を見つめ、「何?」と返事が返ってくる。
初めて返事をしてくれた!嬉しい!
「桜の花びらを押し花にして栞を作ったの。綺麗でしょ?」
「…これを?お前が?」
「はい!」
嬉しくてにこにことしていたら、
「………。」
そっぽを向きながら、小さな小さな声で呟いたのが、微かに聞こえた。
え…今何て?
不思議そうな顔つきでいると「入れば?」と招いてくれる。
意外な展開に戸惑いながらも足を踏み入れた。