銀杏


博貴の部屋はテラスに出るための大きな窓があり、明るく風通しもいい。

それまでは暗いイメージしかなくて、窓のカーテンも閉めたままなのかと思っていた。

ゆったりと座れる大きな椅子のある場所から窓の外を見ると、芝生の庭の向こうに公園があり、子どもの戯れる声が風に乗って聞こえてくる。

思ったよりずっと雰囲気は明るい。

博貴に促され椅子に腰掛けると、それはあまりにふんわりとしていて、そのまま埋もれるかと思った。

少し起き上がろうとしてもお尻が沈み、おたおたしていると、

「立つ時は手伝ってやるよ。」

窓の外を見つめたまま言われ、気づかれてたんだと大人しくした。

博貴はゆっくりと眼鏡を外し、サイドテーブルにコトンとそれを置く。

視線を外に向けたまま穏やかな口調で話し出す。




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