銀杏


「俺が10歳の時、貴士が生まれた。それまでは一人っ子で寂しかったから、歳が離れていても兄弟ができるのがとても楽しみだった。

実際、生まれたての赤ちゃんの小ささに驚いたし、宇宙人みたいな顔で、心待ちしていた気持ちは萎んだよ。

でも触るとふわふわで小さな手で力一杯指を握られて、何とも言えない不思議な気分だった。

毎日見る度、可愛さはどんどん増していく。

だが、反対に憎らしさも膨らんでいった。



母は産後の日経ちが悪くて入院は長引くし、見舞いに行っても体の辛さからまともに話もしてくれない。
なのに赤ん坊には優しく声をかけて抱き上げ、おっぱいをあげる。

赤ん坊を見つめる顔は穏やかで優しくて、俺とは全く違う態度に焼きもちを妬いた。
弟なんかいらない…そう思ったよ。」




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