銀杏
でもよく考えたら、雪乃は物じゃない。いくら俺が自分の物にしたくても、彼女は仕事のためにここにいるんだと思ったら……。
こうして仲良くしてるのは仕事だから?
義務なのか?
そう考えるとやりきれなかった。
意気消沈して落ち込んでいたら、『どうしたの?元気ないね。博貴が元気ないと心配だよ。何かあった?』そう言ってまだ小学生の俺に屈んで目線を合わせた。
その優しい瞳に誘われるように抱きつくと、ぎゅっと抱き締め返してくれた。
何も言わない俺に、ただ『大丈夫…大丈夫』と言い聞かせながら抱き締めてくれてたよ。そして耳元でこう言った。
『博貴が一番』
兄弟でよく親の愛情を確かめようとするだろ?
そしたら親はそれぞれにこっそり『○○が一番好き』と言う。
それと同じで雪乃は俺にそう言ったんだ。