銀杏
ふと気づくと少し先に人影が見えた。
相手も咲に気づいたようで、じっとこちらを見てる。
胸が…ドキドキしてきた。
緊張する。
5メートル程のところまで近づいた。
昨日の今日で何て言おう。まさかこのタイミングで会うとは思ってなかった。
ただ黙って頭だけをぺこりと下げた。
博貴は「…やあ。」と力なく言うと、視線をさっきと同じように銀杏に向けた。
風が吹く度ザワザワと葉を揺らす銀杏を見上げたまま動かない。
時折、目を閉じ下を向いたりする様子に、
誰かと会話してるみたい
そう思った。
「こんな時間まで帰らなくてもいいのか?」
急な問いに少し驚いた。
「家には連絡を入れました。」
「そうか。一人で来たのか?」
「いいえ。北条さんに連れて来てもらいました。」
「ははっ。ややこしいな。俺も北条だよ。」
「ふふっ。そうでした。」