銀杏
「少し話はできるか?」
「でも、あそこで待っててくれてますから。」
咲の後ろを小さく指差した。
「ちょっと待って。」
博貴はケータイで貴士に、「今、咲と会った。彼女に話があるから先に帰れ。」と一方的に言うと、すぐさま電話を切った。
「もうちょっと向こうに行こう。」
貴士がいる場所から更に先へと進んだ。
「…あの、昨日は」
「ここにはどんな思い出がある?」
咲の言葉を遮り、博貴は質問する。
「……秋になると、銀杏の葉っぱをかき集めて舞い上げたり、帽子に詰め込んで家で冠を作ったり、ここで寝転んで体にかけたりしたの。…結構暖かいんですよ?」
博貴は黙って優しい笑みを浮かべて聞いている。
「それで?」
「…それだけです。」
「それだけ?」
「…もう、覚えてません。」
「覚えてない?…なぜ?」
「限界。5歳の子どもにあれもこれもと記憶するのは難しい。」