銀杏


「生まれない方がいい命なんてこの世にはない。
生まれたのはそれなりの意味があるからだ。
現にこうしてお前は俺の心を変えた。
それだけでも生まれてよかったと思えないか?
もっとたくさんの人がお前のことを愛さないとダメか?」

かろうじて首を振る。

たった一人でも咲が必要だと言ってくれるなら…

「何とも言い表せない気分だ。不思議な娘だな、お前は。いつの間にか心に入ってきて、そのまま居座ってしまった。お前の愛らしさはどこからくるんだろう。もしかしたら雪乃と似てるからか…。」

「…お母さんと?」

「ああ。笑ったときの口元とか、後ろ姿とか。」

あんなに止まらなかった涙が嘘のように引いて、会話してるなんて不思議。

「…嬉しい。お母さんと似てるとこなんてあんまり聞かないから…。」

「そして雪乃は君の耳元でこう囁いた筈だ。『咲、愛してる』」

「…うん!うん!」

ガサッと草を踏みつける音がして顔を上げると…




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