銀杏
特別仲がいい訳ではないのに、そっちが突然近寄ってきて友だちの振りをしてきたんでしょう?
確かに頼まれはしたけど引き受けた覚えはない。
そう思っても面と向かって言うことができない自分に腹がたつ。
俯いたまま黙っていると―――
「狡(ずる)い。」
「え?」
「狡いよ、咲は。
水泳で注目されて、男子にもチヤホヤされるし、顧問からも期待されてる。
その上、あんな素敵な人と幼なじみ。しかも一緒に住んでるし。これ以上ないって程幸せを手にしてる。
なのにそれを分けてもくれないんだ。冷たいね。」
幸せ?私が?
確かに今はそうかもしれない。
でもクラスの子たちが家族の話を楽しそうにするのを、羨ましいと思ってるなんて知らないでしょう?
時々泣くのを知らないでしょう?
そんな私のささやかな幸せは悲しみの上に成り立っているのを知らないでしょう?