銀杏


「…どうしても知りたいのか?それは思い出さない方がいいのかもしれない。きっと咲は見たり聞いたりしたことがショックで、自分でその部分に蓋をしたんだ。」

「覚えてなくていいの?」

「ああ。」

「でもお母さんは覚えていて欲しいと思ってない?」

「覚えていて欲しいと思うのは、一緒に過ごした時間じゃないのか?決して、咲が心に負った傷のことじゃない筈だ。」

ああ、そうだ。いつでも思い出すのは普段のお母さん。あの日のお母さんじゃない。

「お兄さん、ありがとう。少し心が軽くなった気がする。
お母さんの横に寝ようとしたことや、氷みたいって思ったことは誰にも言えなかったの。
話ができてよかった。
何だか…お兄さんって……」

「ん?何だ。」

「…家族みたい。うふっ…。」

嬉しくて自然に笑みが溢れた。

さっきは抱き締められてたのに、今度は自分から抱きついた。




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