銀杏


尊に抱かれてふらふらと家に入る。

「おかえり!」

おばちゃんの明るい声。

それとは反対に二人の様子は暗い。

私たちを心配したおばちゃんは「どうしたの?」と不安げな顔をする。

尊はおばちゃんに「後で。」と言うと一緒に咲の部屋に入った。

悲しくて…涙が頬を伝う。

唇をごしごしタオルで擦った。

「やだ…やだ…。何で?何であんなことするの!?」

「…咲。」

「嫌!」

「咲。」

「選んでない。私は福田くんなんか選んでない。」

更に擦って赤くなる。

「咲!」

尊の言葉も耳に入ってなくて、ひたすら擦った。

「もう止めろ!」

尊に手首を掴まれて、やっと我に返った。

すると今度は尊とミッチのキスが頭の中で鮮明に思い出される。

「嫌ぁ――!!」

「咲!落ち着け!!あんなのは何でもない!」

え……。

「咲は何もされてない。俺も何もされてない。」

「…何…で。そんな嘘……。」

「嘘じゃない。」

「だって!見たんでしょう!?」

「…見たんじゃなくて……見えなかった。」




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