銀杏


「見えてない?」

「俺には咲の背中が見えただけだ。咲には俺が…その…キス…しているように見えたのか?俺は触れてない。」

「……ホン…トに…?」

「…ああ。」

私が…
私がされただけ…

でもそうすると避けられなかった自分が悔しい。

また唇に手をやった。

「咲、もう止めろ。真っ赤になってる。そんなに擦っちゃ痛いだろ?」

「だって…だって…。」

ぽろぽろと涙が零れる。

「嫌なことを思い出さないように消してやる。」

「…ど……やって…?」

「…先に鼻かんで、涙も拭いて。できた?
よし。じゃあ真っ直ぐ顔上げて目を閉じて。」

言われた通りに顔を上げて目を閉じた。

ふわりと尊の匂いがした。シトラスのいつもつけてるコロンの香り。

温かい尊の指先が頬に触れる。

「目を…開けるなよ。」

次の瞬間柔らかいものが唇に当たった。

思わず目を開けそうになった。でも嫌なことを消すためだからと開けなかった。

一度離れて尊の顔を見ると「今のは嫌なことを消した分。そしてこれは…俺の気持ちだ…。」とまたすぐに優しく口づけされた。
小鳥がついばむように何度も何度も…。




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