銀杏
「………。」
「これからは忙しくなるから当分は会えないと思う。考えといてよ。…NOと言っても強引に連れて行くつもりだけどね。」
「………。」
「悪い。あまり時間がないんだ。今から大学に行かないと。出よう。」
『強制連行するから』
咲にはそう聞こえた。
胸がドキドキして何も言えなかった。
『尊と幸せに過ごしたい』
そう願うのはダメなの?
私が将来やりたいことは北条さんと暮らすこと?
北条さんは自分のやりたいことを目指してるじゃない。
私は?
もし、水泳を続けたいと言えば、北海道でできるというの?
そんなのできる訳ない。
考えれば考える程、勝手な言い分に腹が立ってきた。
「北条さん!」
「ごめん!急ぐから。」
「……。」
走って行っちゃった…。
はあー。
ため息しか出てこない。
私だってもうすぐ大会があるのに…。
気持ちを掻き乱すようなこと言わないで欲しい。
真夏の陽射しが照りつける中、重い気持ちを引きずりながら学校へ向かった。